危うい遺言書及び遺言による不動産登記②:不動産の名義変更

皆様こんにちは。

本日、鹿児島は雨が強く降っております。

梅雨本番といった感じでしょうか。

今回、書かせていただくのは、

先日、ここに書かせて頂きました

「危うい遺言書及び遺言による不動産登記①」の続きになります。

まだお読みになられていない方は、

まずはそちらをお読み下さいませ。

 

自筆証書遺言の検認及び裁判所での遺言執行者の選任まで

ととのったわけです。

次いで、受遺者(遺贈により、本件不動産を取得する方)と遺言執行者にて

法務局に関係書類を添えて、不動産の名義変更の申請をします(遺贈を原因とする所有権移転登記)。

実際、関係書類を揃えて(遺言執行者の個人の印鑑証明書、登記済権利証、検認済み遺言書、遺言執行者選任審判書等)

法務局に申請したわけでございます。

後は、名義が無事変わるのを待つだけだと、ほっとしておったのですが、

そうではなかったわけでございます。。。。

 

申請から数日後、法務局から当事務所に電話が架かってきました。

「今、申請されている件ですが、本件は「特定遺贈」にあたるのではないですか? 

 物件の登記地目が、「畑」になっているので、農地法の許可もしくは地目変更が必要になるのでは?」

とのことでした。

自筆の遺言書の文言は、「不動産は、某(受遺者)に全部贈与します。」となっております。

対象不動産は、ほぼ全てが登記簿上の地目、課税上の現況地目いずれも畑。

ただし、主たる土地(評価のついている土地)のみは、現況が「宅地」となっています。

 

法務局の指摘をそのまま受け入れるとなると、取りうる手段は、

①特定遺贈だからということで、農業委員会の許可をもらう。

地目が「田・畑」となっている農地には、農地法が適用され、

「特定遺贈」により物件を取得するには、農業委員会の許可を得る必要があり、

その許可証がないと、名義変更ができません。

しかし、この許可は名義人となる人が、農業従事者でないと原則もらえません。

農業従事者とは、農業委員会にきちんと届け出ている方になります。

本件においては、受遺者の方はそうではない。

ということは、この手段はほぼ不可能。

②評価の低い田畑は諦めて、現況宅地の土地を宅地へ地目変更する。

これが田畑を諦めるのであれば、最も実現可能性が高そうです。

コスト面もそう負担にはなりそうではありません

(土地家屋調査士さんに、地目変更登記を依頼する費用負担が増すぐらいでしょうか)。

 

さて、どうしましょうかとなった訳ですが。

最終的には、以下の手段をとり、無事名義変更することができました。

 

自筆証書遺言の記載文言は上記の通り、

「不動産は全部、某(受遺者)に贈与します。」とあります。

遺言を書かれた方には、不動産以外の財産はございませんでした。

不動産が全財産なのです。

実際、遺言書には、財産についての記載があるのは、この記載のみです。

というこであれば、この記載は、遺言者の意図を汲むのであれば、

特定遺贈ではなく、包括遺贈ではないでしょうか。

(包括遺贈というのは、今回のように全財産を遺贈するとか、

全財産の何分の何というように、全体的な割合をもって遺贈する対象をさだめる遺贈のやり方です。)。

遺言書の解釈が別れる場合には、遺言者の意図を汲んで判断すべきというのが、

裁判所の指針でもあります。

包括遺贈であれば、田畑であっても農業委員会の許可は不要です。

ということを法務局に指摘し、掛け合ってみました。

法務局担当者の回答は、検討してみますとのことでした。

結果、その後、何らの連絡を頂くこともなく、無事名義変更手続きは完了致しました。

 

なかなかに冷や冷やしたものです。

前回当コラムで指摘した点含め、

今回のこのような問題も、

遺言書作成段階において、専門家が関与していれば、

起こり得ないことです。

仮に、今回の事案、法務局がダメ、これ特定遺贈でしょ。

ってなっておれば、いらぬ時間及び費用がかさむこと必死です。

 

遺言書作成、相続手続等、多少なりとも費用を押さえたいと

ご自分で費用がかからない方法で、若しくは少しでも安いところで

手続をされたいというお気持ちも十分わかるのですが、

安ければ良いというものでは無いというのは、遺言書作成、相続手続等においても当てはまることでございます。

余計に後々、費用が嵩む程度であれば良いのですが、

取り返しがつかないことも多うございますので、

お気をつけ下さいませ。